未来づくりインタビュー vol.6【株式会社 坂ノ途中】
未来づくりインタビュー vol.6【株式会社 坂ノ途中】
小野 邦彦(おの くにひこ)さん
株式会社坂ノ途中 代表
「未来からの前借り、やめましょう」というメッセージを掲げ、2009年 株式会社坂ノ途中を設立。
農薬や化学肥料に頼らない環境負荷の小さい農業の普及を目指す。
”環境負荷の小さい農業を自分の仕事にしよう”
中村 :
小野さんは、学生時代にバックパッカーとしてチベットを訪れたことが、起業のキッカケのひとつだと伺っております。どのようなことがあったのでしょうか?
小野さん :
チベットの北部を訪ねたんですが、そこは標高4000メートルを超えていて、生き物の種類が限られていました。植生は乏しくて、植物は背の低い下草のようなものしか生えていない、動物だったら高地に順応したヤクっていう毛の長い牛を見かけるくらい、そんなところだったんです。
そんな土地では、資源が循環しているのが目の前で見える。
下草をヤクが食べて、ヤクが糞をして、その糞を人が燃料にして火を熾し、ヤクの乳を温めて、バター茶を飲んでいる、みたいな。
見ていて、ああ、美しいな、ずっと続いているんだなと感じました。いつか、ずっと続く、循環する営みのようななにかを仕事にしたいなと思ったんです。
学生時代の小野さん。チベットにて。
中村 : なるほど。
小野さん : 農業に目を向けた理由はほかにもありますが、チベットと同じ眼差しで今の農業を眺めると、すごく危ういということがわかった。いろいろな問題が絡んでいますけれど、収穫量を増やそう、コストを下げよう、そんなふうに富の最大化がテーマになっている。
それは今にはじまったことではなくて、だから農業って人間が生み出した史上最強の環境破壊ツールになってしまったと言ってもいい。たとえば、砂漠化の原因は8割くらいが農業に由来すると言われています。そこに現代の人口増や大量生産大量廃棄の風潮が組み合わさって、問題は複雑にも深刻にもなっています。
中村 : 農業が環境を破壊しているとは知りませんでした。その大きな要因になっているものって何なのでしょうか?
”農薬って、使えば使うほど使わざるを得なくなって、依存してしまうもの”
小野さん : 要因はひとつではないし、多面的で複雑に影響を及ぼしているので、とても説明が難しいんですが、頑張って簡単に説明します(笑)
まず、化学肥料を例に出します。
植物って、土中の窒素を吸い上げて栄養にしているんです。
なので、その窒素を豊富にする化学肥料を作る。そのためには、鉱物資源の天然ガスが必要。天然ガスは、有限な資源です。あるいは、同じく化学肥料の原料になるリン鉱石やカリ鉱石も有限な天然資源です。
つまり、化学肥料に依存せざるを得ない農業って、鉱山資源がなくなる未来に、鉱山資源に頼らないと耕作できない農地を残すということだったりします。なかなか罪深いです。
中村 : 確かに。
小野さん : そして、その化学肥料とセットで使われる農薬ですけど、たいていの農薬は、田畑にいる生き物、虫、草、菌のどれかを殺すための物質なんですね。だから、農薬を使うと畑の生態系は崩れます。
中村 : というと?
小野さん : 菌を例に出しますね。
自然環境では、いろんな菌がひしめき合っています。その状態では、なんらかの病原菌が入ってきても発症しなかったり、病気の進行が遅かったりします。
なぜかというと、病気というのは、病原菌の大量発生のことなんです。つまり、いろいろな菌がぎゅうぎゅうになっていて、密度が高いと大量発生できないというわけです。
でも、そこで農薬を使って菌を殺してしまうと、あとからきた病原菌はあっという間に大量発生してしまって病気になる可能性が上がります。だから、また除菌して病原菌を殺す、そうすると大量発生できる空間がさらに広くなってしまって、もっと病気になりやすくなる。
こんなふうに、農薬をかけた土ってどんどん弱くなるので、またさらに農薬が必要になる。そんなことが起きてしまうんです。
中村 : 農薬って、使えば使うほど、依存が高まるものなんですね。
小野さん : しかも、農薬と化学肥料の組み合わせってすごく便利です。
農薬を使って微生物や菌がいなくなった土は、有機物を分解してくれる微生物が少なくなっているので、植物が吸える栄養が少なくなる、つまり植物が育たない。
そこで即効性のある化学肥料を与えたくなる。化学肥料主体で成長速度をあげた植物は、虫や草や菌といった、畑のライバルたちに負けやすくなる。だから、またライバルを排除するために農薬をつかいたくなる。
こんなふうに、農薬を使うことが化学肥料を使うことにも繋がっていて、資源や生態系に大きなダメージをもたらす農業になってしまうわけです。
中村 : なるほど。
小野さん : 最近ミツバチが減っているのはご存知ですか?虫を殺すために農薬を使った結果、ミツバチが減る。そうすると、受粉のしくみを失った植物が減る。そして草食動物が減る。肉食動物が減る。みたいなことが起こるんですね。もともとの生態系が変わっていくんです。
中村 : なるほど。そういう状態って、地球に良いわけないですよね。
環境負荷の小さい農業をするために、御社はどのようなことに取り組まれているのですか?
小野さん : 新規就農の人たちの経営が成り立つように、彼らの農産物を扱っています。
新規就農者の多くは、わざわざ農業をはじめようとする人たちだから、有機農業や、農薬や化学肥料への依存度を減らした農業、その地域の気候や土質に合わせた栽培スタイルを志す人がとても多いんです。とても研究熱心だし、挑戦意欲旺盛なので、品種も豊富で野菜もとても美味しい。
けれども、そのうち実際に就農までたどり着くのはごく一部。さらに農業という仕事を継続できるのはひと握りです。
新規就農者は多くの場合、借りられる農地が狭かったり、日当たりが悪かったりと、条件に恵まれず、結果として、収穫できる農産物は少量、または不安定になってしまう。そのために、育てた作物がいくら美味しくても、生産量が少量で不安定なので、販路が見つからず、農業を続けることが難しくなります。
だから、うちでは、新規就農の人たちの営農が可能なものとなるように、彼らの農産物を取り扱っています。
中村 : なるほど。私もお野菜を購入させていただきましたが、美味しいのはもちろん、品種も豊富でした。それでは社会についてはどうでしょう。こんな社会になったら良いなという理想の社会像があれば、教えてください。
”「人間に安心安全」という基準だけでは、未来を守ることにはならない”
小野さん : 想像力をもてる社会です。
たとえばオーガニックって聞くと、人間に安心安全という印象を受けるかもしれませんが、それって実は危うい面を持っているんですよ。
中村 : えっ、どういうことですか?
小野さん : 人間に安全なものを、という発想や視点で物事に取り組むのは危険です。
たとえば、昔は有機リン農薬が多く使われていたんですが、人に害があるというのでネオニコチノイド系というジャンルの農薬主体に変わったんですね。これは人に害がないと言われています。最近は、いや人間の神経にも影響があるんじゃないかという人も増えていますが。
だから使い方も大胆になっていって、ヘリコプターで撒いたりする。
そうすると、嫌々有機リン系の農薬を散布していたころよりも、生態系へのインパクトは大きくなる。こんなことが起きています。
中村 : 人間に安心安全という基準で物事を見ているだけでは、未来を守ることにはならないんですね。
小野さん : そうなんです。それに、義務感だけでは続かないとおもっています。
そこで、「安全らしいから」「オーガニックが良いらしいから」だけで判断するんじゃなくて、品質や楽しさみたいなのも大切にして、「こっちのほうがいいな」と選んでもらえる。そんな社会にしたいんです。
中村 : そのための取り組みって、なにかされていますか?
小野さん : はい。いろいろありますが、最近、子ども向けのかるたを作りました。
『野菜の気持ちかるた』というものですが、例えば「あ」だったら「雨の日はあはふたするよトマト君」って書かれていて、解説シートを読むと、「トマトは乾燥地帯出身なので、吸える水を全部吸おうとします。だから日本で雨が降ると水を吸いすぎて果実が割れてしまうことがあります」って書かれているんです。
中村 : なるほど、野菜の知識が身につくと、買い物に行ったとき「あ、今年たくさん雨が降ったからひび割れてるんだなあ」って判断できますね。
小野さん : そうですね。そんなふうに、野菜の美味しさ、面白さを知ってもらった方がいいと思うんですね。
たとえばナスって、気温が下がると成長がゆっくりになる。皮は厚くなるけど、味が濃くなる。これを知っていれば、夏はさっと焼きナスにしていたけれど、秋は味が濃いし煮込んだほうが美味しいかなとか、そんなことを考えられるようになる。そのほうが楽しいと思うんです。
中村 : 確かに。
小野さん : ピーマンや万願寺とうがらしのような甘味種のとうがらしって日光を十分に浴びるとアントシアンっていう色素を出して黒くなるんですね。
スーパーでは綠色のものばかり並んでいて、黒いものはまず流通しない。でもアントシアンって、実はブルーベリーの目が良くなるって言われている色素のこと。たくさん日光を浴びた証拠として、気にせず食べましょうと言うメッセージを僕たちはだしています。
そんなふうに、ひとつひとつの野菜の事情を知ってもらうことで、へー、面白いって想像力を膨らませられる。そんな取り組みも行っています。
中村 : なるほど、そういうことを知っていると生活が豊かになりそうですね。海外、東南アジアでも事業をされていますよね。
小野さん : 「海ノ向こうコーヒー」ですね。
中村 : ネーミングまで、想像力をかき立たせる。
小野さん : ラオスの森林減少をなんとかしようというところから生まれたコーヒーなんです。
コーヒーって、木に直射日光があまりあたらないほうが美味しくなるんですよ。だから、森のなかって実はコーヒーを育てるのに向いてるんですね。
ラオスの森でコーヒーを栽培すれば、村の人たちはコーヒーで収入を得ることができるし、森林を伐採する理由もなくなる。最終的には、森林伐採を止めることにつながるかなと。今はミャンマーや中国の雲南、タイでもコーヒーを育てています。
中村 : すごく背景のあるコーヒーなんですね。僕の想像力はまだまだでした(笑)
インタビューさせていただいた
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百年先もつづく、農業を。坂ノ途中は、無農薬・無化学肥料・有機栽培など、環境負荷の小さな農業の普及を目指す野菜提案企業です。野菜の通販宅配をはじめ、農業を未来につなげるためのさまざまな活動を行っています。
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未来づくりインタビューとは
これから子どもたちが生きてく”100年先の未来”のために、美しい地球・より良い社会を残そうと取り組まれている方々の活動内容や、想いをインタビューさせていただく企画です。
皆さまの日々の生活を考えるきっかけになれば幸いです。